この度、横浜南地区家族会に入会させていただきましたうみまると申します。親子共々よろしくお願いいたします。
私の息子は、練習艦隊司令官 今野泰樹海将補率いる練習艦かしまに実習幹部として乗艦し、5月25日に遠洋航海実習のため横須賀を出港しました。
父親である私の職業は海上保安官です。
私は様々なシーンで自分の職業を聞かれた際に「海上保安官です」と答えると、「自衛隊の方ですか?」と言われることもあることから、海上自衛隊と海上保安庁の違いにつき、少し紹介させていただきたいと思います。
海上保安庁旗(画像引用元:稚内海上保安部HP)
自衛隊法第3条には、
「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。」
とあり、海上保安庁法第2条には
「海上保安庁は、法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帯する事項に関する事務を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。」
とあります。堅苦しい文章ですが、根拠としては法律に明確な職務内容の違いがあるわけです。
簡単に言えば、海上自衛隊は「海上において、他国からの侵略に対し、我が国を防衛する」ことが主任務であり、海上保安庁は「海上においての治安維持、海難救助、海上安全の確保、いわば海の警察、消防、救急」が主任務となります。
組織上も海上自衛隊は防衛省、海上保安庁は国土交通省の外局として設置されています。
自衛艦旗と護衛艦(画像引用元:海上自衛隊ホームページ)
海上自衛隊と海上保安庁が共同している職務として、一番わかりやすいのは海上自衛隊が実施している、ソマリア、アデン湾における「海賊対処行動」が挙げられます。
これは「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」に海上自衛隊と海上保安庁の対処につき明確に規定されており、具体的な対応要領としては、大まかですが、
1 海上自衛隊の護衛艦に海上保安官である「ソマリア派遣捜査隊員」が同乗して対処する。
2 海上自衛隊の護衛艦に所属し、海上自衛官で構成される「立入検査隊員」は、海賊事案発生時、海賊行為を行っている者が乗船している船舶に乗り込んで「立入検査」をし、海賊行為をした者を「取り押さえ」、
「ソマリア派遣捜査隊員」が同乗する護衛艦に連行する。
3 護衛艦に同乗する「ソマリア派遣捜査隊員」は、「立入検査隊員」から海賊行為を行った者の引き渡しを受け、海賊行為をした者を「逮捕」し、犯罪捜査(最終的には海賊行為を行ったものに法の裁きを受けさせる)する。
これらの対応要領を見ても、「海上保安官」が捜査官としての職務(法的に言うと司法警察職員)を行い、海上保安庁が軍事組織ではないことがわかると思います。
第39次海賊対処行動に派遣される護衛艦「ゆうぎり」には海上保安庁より8名の派遣捜査隊が乗船(画像引用元:海上保安庁Twitter)
海上保安庁と海上自衛隊の連携訓練(画像引用元:海上保安レポート2019)※「海保」の文字は当方にて追加
手錠と捕縄で拘束されている海賊役後方の後方にいる青いヘルメットの2名が海上保安庁の派遣捜査隊員だよ
その他3名が海上自衛隊の立入検査隊よ
実のところ、これは知らない方も多いかと思いますが、かつて海上保安庁と海上自衛隊は、きわめて短い間ですが、同じ組織であったのです。
第二次大戦後、海上保安庁は自衛隊の前身である警察予備隊、海上警備隊のおよそ2年前に発足しており、海上自衛隊の前身である、海上警備隊は海上保安庁の付属機関として設置されていました。
そのせいか、海上自衛隊と海上保安庁の制服、階級呼称、挙手の敬礼に至るまで、非常に似ております。(例:海上自衛隊=3等海尉≒海上保安庁=三等海上保安正、捜査機関であるのに、巡査、警部補等の階級呼称ではない。)
海上保安庁の制服には海上自衛隊の制服にある海士のセーラー服や海曹以上の詰襟はありませんが、海上自衛隊幹部常装第一種冬服と海上保安庁第一種制服はデザイン自体はほぼ同じで色の違いのみです。(海上自衛隊の制服色は黒色、海上保安庁は紺色)
海上保安庁の第一種制服(冬用:左)と第二種制服(夏用:右)(画像引用元:海上保安庁ホームページ)
海上保安庁の階級章(画像引用元:海上保安庁ホームページ)
海上自衛隊冬制服(左)と第3種夏制服(右)(画像引用元:海上自衛隊八戸航空基地ホームページ)
海上自衛隊の階級章(画像引用元:海上自衛隊八戸航空基地ホームページ)
一番大きな違いは、制帽についている帽章のデザインです。
第二次大戦後、海上保安庁発足時、海上保安庁の旗、海上保安庁旗のデザインを決める際、GHQの指示により「意匠として、桜、錨、星を用いてはならない」との指示により、船の羅針盤を用いたマークとし、その後ろに警察機関である旭日を用いて海上保安庁のマークとしたとのことです。(私が任官して教育機関で教えられたことです。)
昭和45年ころまでは、海上自衛隊と海上保安庁の帽章のスタイルは双方とも同じ羅針盤のデザインであったようです。
海上保安庁の制帽(左)と海上自衛隊の制帽(右)(画像引用元:MILITARY CAP COLLECTION)
息子が海上自衛隊幹部候補生学校に入校する前から現在に至るまで、息子と色々な話をしましたが、「誰のために仕事をするのか」という一言に尽きると思います。
一般の会社勤務される方々は「お客様のため、会社のため、自分のため、家族のため」であるのが一般的であるかと思いますが、海上自衛官、海上保安官は「自分のため、家族のため」の前に、「国民の皆様のため」に仕事をしなければならず、怖いから、家族が危険だからと言って、職務から逃げ出すことは許されません。
そのような意識を醸成するため、全寮制で厳格な規律のもと、一定期間集団で生活することを義務付けられているのです。
海賊対処行動に従事する海上自衛隊や海上保安庁へ感謝を伝える国際船員労務協会および全日本海員組合によるジブチ訪問団。2023年3月 護衛艦まきなみにて(画像引用元:日本船主協会(公式)Twitter)
私が、海上保安官としてこれまで勤務した中で、何よりもうれしく思ったことは、検挙した被疑者、被災した被災者、救助した要救助者から、「本当にありがとう」と言われたことです。
とても励みになります。
なぜなら、場当たり的なあいさつ代わりの「ありがとう」とは違い、「反省させてくれてありがとう」「命を救ってくれてありがとう」等、「ありがとう」の重みが違うからです。
ただし、この「ありがとう」を聞くことができるのは、日々の訓練等研鑽を積んでこそ、できるものです。そうでなければ、国民皆様の生命、財産を守ることはおろか、自分の命すら守ることができないからです。
2018年10月、第21航空群(館山)は、海上保安本庁から硫黄島沖での台湾船籍の船の横転に伴う、乗組員8名の人命救助及び輸送に係る災害派遣要請を受け、UH-60J救難ヘリ×2機で対応、無事に乗組員を救助し、硫黄島航空基地で海上保安庁に任務を引継いだ。(画像引用元:防衛省 海上自衛隊Twitter)
自衛隊も都道府県知事や管区海上保安本部長等からの要請に基づく「災害派遣」があり、これにこれまで従事した方々も多いと思います。
この時には、まさに普段の研鑽がものを言うはずです。
私たち親子も普段から研鑽を積み、組織は違えど国民の皆様から本当の「ありがとう」を頂けるよう邁進する所存です。
by うみまる(横浜南地区会)
(画像引用元:海上保安庁ホームページ)
2019年6月、平成31年度インド太平洋方面派遣訓練(IPD19)にて海上保安庁の巡視船「つがる」と連携の強化を図る護衛艦「いずも」「むらさめ」「あけぼの」。(画像引用元:防衛省 海上自衛隊Twitter)
巡視船つがるの記号番号はPLH02。PLHの意味はP=PATROL、L=LARGE、H=WITH HELICOPTERだよ
巡視船つがるは、北海道を拠点に普段は海難救助、海上犯罪の取締りを行っています。ヘリコプターを搭載している巡視船は、海上自衛隊の護衛艦等と連携することが多いんですって